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ユニクロのセルフレジ


コロナ禍の影響もあるのでしょうか。最近、セルフレジを見かける機会が増えてきました。スーパーやコンビニでは当たり前の風景になりつつあります。

先日、セルフレジを巡る裁判でユニクロが敗訴したといった報道がありました。

ユニクロのセルフレジといえば、バーコードをリーダーで読み取るなどしなくても、商品を入れたカゴを大きな箱状のくぼみの中に置くだけで精算が終わるという便利なレジです。使ったことがある方も多いのではないでしょうか。

さて、前述の裁判は、セルフレジについての特許を持つアスタリスクというベンチャー企業に対してファーストリテイリング(ユニクロ)が主張する特許無効について争われたものです。

ファーストリテイリングの主張について改めて検討した特許庁がアスタリスクの特許は無効であると判断したのに対して、知財高裁は「特許は無効との特許庁の判断は間違い」であると逆転判決を出しました。高裁判決ですので確定はしていませんが、知財事件の場合、専門裁判所である知財高裁の判決を最高裁が覆すことはなかなかありません。

では、ベンチャー企業であるアスタリスクが、大企業であるファーストリテイリングに裁判で勝てた理由はどこにあったのでしょうか?

一連の報道を見る限り、いくつかの理由を見出すことができますが、ひとつ挙げるのであれば、アスタリスクの特許が非常に単純なものだったことでしょう。

セルフレジの基本技術は、商品につけた特殊なタグとレジ本体が電波で通信することで、タグに書き込まれた価格などの情報をレジ本体が読み込むことですが、これ自体はすでに一般的な技術といえます。

では、アスタリスクの特許発明の本質をひと言で説明すると何でしょう。それは、商品を入れる大きな箱状部分について、バケツやカゴのように「開口部を上向き」にしたことです。

これにより、まず、商品を入れやすくなります。次に、電波が箱状の内側の面で反射・吸収されて横に漏れにくくなります。つまり、レジを何台か並べても間違えて隣のレジの電波を拾ってしまうことが無くなります。

コロンブスの卵的な種を明かされれば「なんだ、そんなこと誰だって思いつく」と言われてしまうような発明だったともいえます。

しかし、「誰だって思いつく」かもしれなくても、それが既に世の中にあったのか、なかったのかは大きな違いです。事実、裁判でも、「開口部を上向き」のセルフレジの存在は立証されませんでした。

「単純で、一見誰でも思いつきそうな発明」、つまり、「当たり前のようにみえて、実は、当たり前でない発明」、こんな発明ほど特許になると非常に強力な権利になります。

皆さんのビジネスも見直してみると、意外に当たり前のようで実はビジネスのコアになっているアイディアがあるかもしれません。

 

(メルマガ「IPビジネスだより 2021年6月号」から転載)