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特許制度と中小企業の海外進出

「特許出願の国際的制度 中小企業で利用増加」といった報道がありました。記事によると、特許出願の国際的な制度を利用する中小企業が増加しており、中小企業がこの制度を利用した件数は、去年5072件(前年比6.9%増)、2010年以降で最多とのこと。記事では、背景には中小企業の間で積極的に海外展開を図る企業が増えていることがあると分析しています。

先日、私が東京都の知財担当者とお目にかかった際に、東京都の外国出願補助金の申請が前年の1.3倍で、うれしい反面、審査を厳しくせざるを得ないとお話しされていました。このことからも記事の内容は間違いないと感じます。

さて、記事で紹介されている特許出願の国際的な制度(PCT出願)ですが、「特許の出願を1通、提出しただけで150余りの国で同じ扱いを受けることができる国際的な制度」であることは確かです。一方で、留意すべき事項もあります。

1.審査はそれぞれの国のルールで、それぞれの国が行います。
記事だけ読むと「特許出願をひとつすれば、150か国で特許がとれる!」と読めなくもありません。それは違います。

特許を取るには、①役所(特許庁)に書類を提出、②役所(特許庁)の審査にパスする、の段階を踏まなければなりません。

通常、150か国で特許を取ろうと思うと、①150か国の役所(特許庁)に書類を提出、②150か国の役所(特許庁)の審査にパスする、必要があります。PCT出願を使うと、①書類の提出がひとつで済むことがメリットです。

つまり、②150か国の役所(特許庁)の審査にパスする、についてはそのままです。それぞれの国によって特許制度は違いますし、審査の基準も微妙に異なります。これについては個別の対応をしなければ特許は取れません。

2.やはり、国の数だけ費用は掛かります。
記事だけ読むと「国際出願に必要な手数料を軽減」してくれるので費用も大幅削減と期待しますが、期待しすぎは禁物です。

前述の通り、PCT出願は、①書類の提出がひとつで済むので、この部分の費用は削減できます。一方、②それぞれの国の役所(特許庁)の審査にパスする必要があることは変わりませんので、それぞれの国の審査費用は必要になります。

また、それぞれの国の代理人(弁理士・弁護士)費用がかかる点も重要です。弁理士は国家資格ですので、外国で行う手続きはその国の有資格者しかできません。

もうひとつ、忘れがちなのが翻訳費用です。外国で審査してもらうためには、書類をその国の言語に翻訳しなければなりません。この翻訳費用が予想外にかかります。

留意点があるとはいえ、複数の外国に特許出願する場合、PCT出願はメリットが多い制度であることは間違いありません。中小企業によるPCT出願の利用が増えているのはメリットがデメリットを上回るからでしょう。

外国への特許出願をお考えの際には、貴社に適したより良い特許出願戦略を専門家である弁理士と相談されることをお勧めします。

 

(メルマガ「IPビジネスだより 2021年7月号」から転載)