「音楽機器の『ズーム』、商標権侵害でビデオ会議の『Zoom』代理店を提訴」
そんなニュースがありました。
株価が乱高下したり、問い合わせが入ったり、いろいろ業務に支障が出ているようです。でも、なぜ代理店?そこからは商標権の主張での悩ましい問題が見えてきます。
ズーム社(音楽機器)が持つ登録商標を見てみましょう。使えそうなのは次の2つの商標権です。まずは、URLをクリックして登録された商標を眺めてみてください。
(1)登録2445969号(1992年8月31日登録)
(2)登録4949899号(2005年8月5日登録)
どちらも随分前から登録されている商標で、権利も存続しています。その点は問題なさそうです。
まず、(1)を見てみましょう。「ZOOM」といった商標です。商標は問題なさそうです。では、(1)の商品・役務区分を見てみましょう。
「電子楽器用自動演奏プログラムを記憶させた電子回路及びCD-ROM,メトロノーム,レコード,蓄音機(電気蓄音機を除く),楽器,演奏補助品,音さ」
Zoom社(ビデオ会議)の提供サービスと被るところはなさそうです。商標権は、その商標を使用する商品やサービスが限定されます。つまり「ZOOM」という登録商標を持っているからといって、どんな場合でも権利主張できるわけではありません。指定した商品・役務に類似する範囲までです。(1)の権利を使ってZoom社(ビデオ会議)にクレームを入れるのは難しそうです。
では、(2)はどうでしょう。こちらは「zoom」という文字をデザインしたロゴのようです。さて、このロゴは、Zoom社(ビデオ会議)のロゴと似ているでしょうか?このロゴのせいで、ズーム社(音楽機器)とZoom社(ビデオ会議)と間違えるでしょうか?微妙なところです。
さらに、(2)の商品・役務区分を見てみましょう。いろいろ書いてありますが、関係しそうなのは「電子計算機用プログラム」だけです。これもまた微妙なところです。Zoom社(ビデオ会議)は「電子計算機用プログラム」を売っているのでしょうか?これが記事にあった「Zoom日本法人が自らビデオ会議サービスを提供している事実が確認できず、事業内容も不分明」という意味です。この点、代理店は販売していますから、代理店を相手取って提訴したのでしょう。代理店としては、「本家のZoom社(ビデオ会議)ではなく、なぜ自分たちが?」と釈然としないかもしれません。
このほかにも悩ましい点がいくつかあるのですが、少なくとも商標登録する際にどのような商品やサービスを指定するかは十分に検討しないと使いづらい権利になってしまいます。
ズーム社(音楽機器)もそれには気づいているのでしょう。「オンラインによるアプリケーションソフトウェアの提供(SaaS)」などを指定した商標出願(3)を今年に入ってから行っていますが、遅きに失した感は否めません。
(3)商願2021-032682(2021年3月18日出願)
(メルマガ「IPビジネスだより 2021年9月号」から転載)