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「秘密特許制度」導入なるか?

「先端技術の特許、非公開を検討」との記事がありました。
政府は、現在、軍事に転用できる先端技術の特許を非公開にする制度の導入検討を急いでいるといった内容です。いわゆる「秘密特許制度」の導入検討です。

特許制度とは「一定期間の発明の独占を認める代わりに、広く公開して科学技術の発展に役立てる」といった産業政策に基づく制度です。その原則に立てば「特許を非公開」というのは原則に反した考え方ともいえます。

一方、近年、にわかに注目されてきているのが「経済安全保障」です。経済安全保障分野とは、経済と安全保障が密接に絡む分野を指します。この分野では、軍事に転用できる先端技術の情報流出や輸出の管理を始め、先端研究を行う科学者や技術者の人材流出などもテーマに含まれます。そして、この分野の重要な制度として位置づけられているのが秘密特許制度です。

一見、特許制度の原則に反しているかに見える秘密特許制度ですが、実は、世界で50か国以上で導入されている制度です。日本でも、先の大戦までは秘密特許制度を有して、軍事技術を中心に運用されていました。戦後の憲法改正に伴って、日本は技術を軍事転用しないとの方針のもと、秘密特許制度を排した経緯があります。

秘密特許制度は、経済安全保障の観点からは確かに重要である一方、「軍事転用」といったきな臭い言葉がついて回ります。また、秘密特許に指定されてしまうと、実質、国家のみが独占できることになってしまい、特許を取る意味がなくなってしまうのではないかといった課題もあります。さらに、日本の特許法では、最初に日本に特許出願することは義務となっておらず、例えば、いきなり中国だけに特許出願するといったことも認められることから、今のままでは、たとえ秘密特許制度ができても「ざる法」になってしまうとの指摘もあります。

先の記事によれば、政府は再来年2023年の導入を目指したいとのことですが、細部までの検討と十分な議論のうえで進めてもらいたいと期待します。

 

(メルマガ「IPビジネスだより 2021年12月号」から転載)