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トレパク疑惑と公衆送信権

このところ「トレパク」という言葉を目にすることが増えてきました。「トレース(絵などを上からなぞること)」+「パクる」で「トレパク」です。

ネットの世界や、デザイナーの間では、以前から使われていた言葉のようですが、音楽ユニット「YOASOBI」のキービジュアルを担当した古塔つみ氏のトレパク疑惑から頻繁に使われるようになりました。古塔つみ氏のイラストに他人の写真作品からのトレースが複数あるのではないかといった疑惑です。

トレパクは、他人の作品をトレースするので著作権侵害では?と問題になっているのですが、画家が研鑽のため有名な絵画を模写するなどは昔から行われてきたことであり、直ちに著作権を侵害するというものではありません。自分で楽しむため、自己研鑽のためなどであれば問題ないことは明らかです。

では、昨今、騒がれるのは何故でしょう。やはり、インターネットの普及によって誰でも作品を公開できることになったことが大きいでしょう。インターネットなどで自分の作品を公開する権利(又は、公開しない権利)を公衆送信権(著作権のひとつ)といいます。

イラストや写真など独自の作品を制作すると公開したくなるのが人情です。他人の作品をトレースしてみて上手にできたらネットにアップしたくなる気持ちも理解できます。しかし、これをやってしまうと著作権(公衆送信権)の侵害となってしまします。

誰もが、手軽に、インターネットにアクセスできるようになり、公衆送信権に絡む問題も目立ってきました。トレパクの他にも、スクリーンショットをSNSで発散する、読み聞かせ動画を動画投稿サイトにアップする、なども同様の問題をはらんでいます。SNSなどのネットサービスでは、これらが簡単にできてしまうこともあって、当人が問題あることに気づいていない場合も多いでしょう。

前述の古塔つみ氏も声明を発表して沈静化を図る事態となりました。公衆送信権は、個人のみならず、ビジネスでも意識しなければならないコンプライアンス課題となってきています。

 
(メルマガ「IPビジネスだより 2022年2月号」から転載)