· 

名前は商標登録できないのでは?

こんな記事がありました。
「独立しても仕事が次々舞い込む高杉真宙 関係者は『商標登録問題が深く関係』と指摘」

俳優の高杉真宙が独立したばかりなのに次々と仕事が舞い込む。どうやら、独立前に所属していた芸能事務所がそのまま営業しているかららしい。独立したのになぜ?
実は、独立前に所属していた芸能事務所が「高杉真宙」を商標登録していた!

そんな記事なのですが、「おや?名前は商標登録できないのでは?」と思った方もいるのではないでしょうか。

確かに、IPビジネスだよりでも、過去に「自分の名前なのに、ブランド商標ダメ」といった記事解説を行っています。(2020年5月号)
ちなみに、その際の記事がこちらです。

「KEN KIKUCHI」はダメで、「高杉真宙」はOKとはおかしくないでしょうか?

調べてみると、実は、「高杉真宙」についても審査の段階で拒絶理由(このままでは商標登録は認められないとの指摘)が審査官から通知されています。この理由は、「KEN KIKUCHI」の場合と同様で「ありふれた氏名を普通に表示」したにすぎないからとの理由です。

原則論では、これを回避するためには地球に存在するすべての高杉真宙さんの承諾を取らないといけないという現実的にほぼ不可能な対応を求められます。

では、なぜ「高杉真宙」は、商標登録されたのでしょうか?

これは、商標法の別の規定を主張して認められたためです。
それは、「他人の著名な芸名等を含む商標は登録できない。ただし、その他人の承諾を得たものは除く。」との規定です。

商標権者である芸能事務所は、次の主張をして認められました。
・「高杉真宙」は、著名な芸名(本名ではない)である。
・芸能事務所は、「高杉真宙」との芸名を名乗る他人から商標登録の承諾を得ている。

つまり、「高杉真宙」は本名ではなく芸名だからすべての高杉真宙さんの承諾を取る必要はないし、「高杉真宙」は著名な芸名であるし、芸名を名乗る本人から承諾も得ているので問題ないと主張して認められたわけです。

法律がそうなっているとはいえ、「高杉真宙」が本名ならダメで、芸名だからOKというのも釈然としないものが残るかもしれませんね。もしくは「高杉真宙は著名」の方が、しっくりこない方もいるかもしれません。私など、真宙(まひろ)が読めませんでした。(笑)

法律それ自体は一本筋が通っていても、現実では、なかなか一筋縄ではいかないものです。

 

 (メルマガ「IPビジネスだより 2022年3月号」から転載)