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マルチマルチクレームの禁止

「マルチマルチクレームの禁止」と聞いても、分からない方も多いと思います。「マルチマルチクレーム」とは何かも含めて、ごく簡単に説明します。

これは、特許を出願する際の書類の書き方のルールが変更されたと考えてください。ただ、発明を定義する部分の書き方についてのルール変更であるため、非常に重要で注目されています。

特許を出願する際の書類では、発明を項目ごと列挙して箇条書きにします。この項目を請求項と呼びます。次の例を見てみましょう。

請求項1:発明A
請求項2:請求項1の発明+B
 つまり、請求項2は、発明(A+B)です。
請求項3:請求項1の発明又は請求項2の発明+C
 つまり、請求項3は、発明(A+C)または発明(A+B+C)の2つです。
請求項4:請求項1の発明、請求項2の発明または請求項3の発明+D
 つまり、請求項4は、発明(A+D)、発明(A+B+D)、発明(A+C+D)または発明(A+B+C+D)の4つです。

この例では、請求項3は、請求項1と請求項2の2つを引用しているので、ひとつの請求項の記述で2つの発明を表現できています。これを「マルチクレーム」と呼びます。

次に、請求項4は、請求項1、請求項2、請求項3の3つを引用しており、さらに、請求項3が「(2つの発明を含む)マルチクレーム」であることから、ひとつの請求項の記述で4つの発明を表現できます。このように、「マルチクレームを含む、複数請求項を引用する」請求項を「マルチマルチクレーム」と呼びます。

頭の体操のようで、すんなりとは理解できないかもしれませんが、感覚的に「マルチマルチクレームをどんどん続けていくと、ひとつの請求項でたくさんの発明を表現できる」ことはお解りいただけるのではないでしょうか。

この4月から変わった「マルチマルチクレームの禁止」とは、このような表現方法で出願書面を記載することは認めないという運用の改正です。

実は、アメリカや中国など、すでに「マルチマルチクレーム」を認めていない国も多く、国際的な流れといえます。前述の通り、「マルチマルチクレーム」を認めると、ひとつの請求項でたくさんの発明を表現できることになりますが、読み解くことが大変です。審査や権利の把握で混乱を招くことも予想されます。その意味ではすっきりしてよいと言えます。

一方、多くの国では、特許料などの費用は請求項の数で決まります。「マルチマルチクレームの禁止」とは、いままでのように、ひとつの請求項でたくさんの発明を表現できなくなることを意味します。つまり、同じ発明を表現するためには請求項の数が増えます。すなわち、特許料などの費用がその分必要になるという事になります。

一見、単なる書類の書き方のルール変更のようですが、実は、費用面への影響があることも無視できません。

 

 (メルマガ「IPビジネスだより 2022年4月号」から転載)