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「ドワンゴ vs FC2」と特許制度の未来

ひとつ前の記事では、商標「ゆっくり茶番劇」を巡る事件は、大きな流れの中で顕在化した現在の商標制度のほころびを示すひとつの事象ともいえる、と解説しました。

実は、特許制度においても同様の事件がいくつも起きています。そのひとつ、最近の例をご紹介して一緒に考えてみましょう。

今年3月にあった「ドワンゴ vs FC2 特許侵害事件」の地裁判決です。

これは、閲覧している端末からのコメントを動画配信画面にリアルタイムで書き込むといった、いわゆる「弾幕」と呼ばれる技術について、ニコニコ動画を運営するドワンゴが、FC2が特許侵害していると訴えた事件です。

まず、今回の判決は地裁判決であって確定していません。しかし、知財業界ではちょっと驚きの判決であり、かつ、現在の特許制度の限界に触れた判決として注目されたものです。

本当にざっくり、誰にでも分かるように判決のポイントを述べると次の通りです。

1)FC2は、ドワンゴの特許技術を利用していることは明らか。
2)しかし、ドワンゴの特許技術を利用したプログラムが格納されているFC2のサーバは米国にあるので、日本の特許法では侵害を問えない。

この 2)については、多くの業界関係者は懐疑的です。ドワンゴも「プログラムが日本のサーバにあったら侵害で、外国のサーバにあったら侵害でないというのはおかしい」と裁判で主張していますが、裁判所は「現在の特許法ではムリ」と判断しています。

これは前述した商標制度と同様に、特許制度も国ごとの権利が原則であることに起因します。ネット世界では国境がありません。このように現在の特許制度ではひずみが出てきていることは世界中で問題視されています。

特許制度では、当面の解決策として「域外適用」という考え方が示されています。一定の条件を満たす場合には、例外的に、日本の特許法を外国での実施に適用するといった法解釈です。しかし、このような事例は少ないため、裁判所の判断も一定していません。今回の事件は、もっとも原告に不利な側に判断が振れた事例だったと言えるでしょう。

商標制度同様、特許制度においても世界統一特許法が目指されています。しかし、そもそも自国の産業振興を目的として発展してきた制度です。しかも、特許は最新技術を扱うため各国の政治的意味合いも無視できません。国の利害対立を含むことから世界統一特許法は遅々として進みません。

一方、ネット世界のビジネスがどんどん広がって、特許制度の世界的見直しが待ったなしに追い込まれていることも事実です。

何らかの解決策を打ち出せるのか。それとも、特許制度が破綻するのか。世界各国の動きが、今、注目されています。

 

 (メルマガ「IPビジネスだより 2022年5月号」から転載)