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ジーンズのリメークと消尽理論

ジーンズをバッグにリメークして販売していた女性が商標法違反で逮捕されたとの報道(新潟放送 2022.8.23)がありました。

記事によると「容疑者がリメークし、ロゴやタグも容疑者がつけた」とあります。ジーンズの後ろポケットについているロゴや、ポケットに縫い付けてあるタグなど指しているのでしょう。

ロゴやタグをジーンズから外して、別のジーンズをリメークしたバッグに付けたのであれば、それはいけないことだと誰もが思うでしょう。

しかし、ちょっと考えてみてください。もし、もともとジーンズに付いていたロゴやタグを活かしてバッグにリメークしたならばどうでしょう。

ロゴやタグはバッグの材料にしたジーンズに初めから付いていたわけですから偽物ではなく本物です。加えて、そのジーンズはお金を払って正規に購入した真正品だとします。それでもいけないのでしょうか。

ここで登場するのが記事タイトルにある「消尽論」です。これは、適正に真正品を入手した場合、その商品に伴う商標権は「消え尽くす」という考え方です。この考え方が認められなければ古着屋などは違法になってしまいます。ネットで転売などもできません。

「消尽論」が認められるならば、正規に購入した真正品のジーンズでバッグを作って売っても問題ないように思います。ところが、結論は、たとえ真正品のジーンズで作ったバッグでも、これを販売すると商標法違反となってしまいます。

確かにジーンズという商品に付随する商標権は、お金を払って購入した時点で消尽します。ところが、これを使ってバッグを作ると、バッグを生産した(バッグという新しい価値を生み出した)と考えて商標権が復活するのです。

なぜこのような考え方をするのか。この背景には有名な争いがありました。プリンターのインクカートリッジのリサイクルを巡る争いです。

使用済みのインクカートリッジを再生して販売するビジネスが現れた際に、特許権について「消尽論」を主張するリサイクルインク陣営に対して、大手プリンターメーカーが主張したのがこの「再生産で権利復活」といった考え方です。最高裁でこれが認められ、いまでは基本的な考え方になっています。

前述の記事によると「悪意を持ってやっていなかった」とあります。特許権や商標権は強力な権利で、悪意の有無は関係なく、上述のような考え方を知らなかったとしても侵害に問われます。個人がネットで直接販売できるようになり、これからますます知的財産権による摘発は増えていくでしょう。

 

(メルマガ「IPビジネスだより 2022年8月号」から転載)