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ルビーロマン苗木流出と知財保護

 今年の夏、石川県が開発した高級ブドウ「ルビーロマン」がひと房150万円で落札されたとの報道(東京新聞 2022.7.15)がありました。ルビーロマンは糖度が18度、1粒20グラム以上あるのが特徴の高級品種とのことです。

その一方で、こんな記事も。

「『ルビーロマン』が韓国で流通 石川県が誇る高級ブドウ、中国経由で苗木流出?品種保護されず、商標巡り紛争も」(東京新聞 2022.9.20)
https://www.tokyo-np.co.jp/article/203636

近年、日本で開発された農作物の新品種の種や苗が海外に流出して、その果実などが安価に輸入される事態が相次いでいます。最近では、高級ぶどうのシャインマスカットが中国で大量に生産され、大幅に値崩れを起こしたことが話題になりました。

農作物の新品種の開発には多くの時間と費用が掛かります。これらも知的財産の一種であり、農作物の新品種の種や苗を登録して保護するのが種苗法です。

今年の4月に改正種苗法が全面施行されました。賛成、反対の意見が飛び交って話題になったのを記憶されている方も多いでしょう。改正種苗法では、ルビーロマンのような事件が起きないように、登録された種や苗の海外持出が厳しく規制されましたが、今回は、間に合わなかったようです。

さて、新品種の種や苗を守るには大きく2つの法律による方法があります。ひとつが前述の種苗法、もうひとつが商標法です。新品種保護におけるこの2つの法律のアプローチの違いを眺めてみましょう。

まず、種苗法です。種苗法は、特許法をベースに骨組みが作られました。そのため、権利独占の期間に限り(30年)があります。この期間を過ぎると誰でも自由に栽培することができるようになります。

そして、農林水産省の審査を経て、登録されることが権利発生の条件です。この審査では、一定程度の品質再現が求められます。種や苗によって味が異なったり、見た目が違っては困りますが、この基準をクリアするまでに再現性をあげることが大変です。

また、権利は、国ごとです。韓国でも権利を守りたければ韓国で、中国でも権利を守りたければ中国で、とそれぞれ登録手続きをしなければなりません。国際条約で、本国で登録されてから一定期間内(ぶどうは6年)に外国に出願する必要があります。ルビーロマンは、この期間が過ぎてしまったため韓国で自由に栽培できるようになっており、今回の事態を招きました。

一方、商標法ではどうでしょう。商標法はブランドを登録して保護するものですが、権利期間は10年です。ただし、更新ができますので、実質、無期限といってもよいでしょう。

商標も同じく審査を経て登録されますが、基本は他人のブランドと混同しないかどうかの審査であって、品質などは審査対象ではありません。

また、商標も権利は国ごとですが、本国の登録から何年までといった期限も区切られていません。

このように見てくると種苗法と商標法では、いずれも新品種を守ることができる点では同じですが、守る対象が種や苗そのものとブランドと異なります。

実は、最近まで、種や苗を守る手段は種苗法一辺倒でした。ところが、上述のような国を跨いだ競争が激しくなるなか、使い勝手の良い商標による農産物保護が注目され広がっています。種や苗そのものとブランドの両面からの知財による保護戦略です。

このような背景を念頭に置いて、冒頭の記事を読み返してみると、また新たな気付きがあるかもしれません。

 

(メルマガ「IPビジネスだより 2022年9月号」から転載)