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mimic AIによる画像生成と著作権法

「mimic」というサービスをご存じでしょうか。インターネット経由で提供されるサービスの名称で、いくつかのイラストを読み込ませると、AIがそれらのイラストの個性や特徴を学習してそれっぽい画風のイラストを生成してくれるといったサービスです。

現在、mimicのサイトではβ版が公開されています。

さて、サイトを眺めてみると「【mimicの今後の展開について】を公開いたしましたので、ご一読くださいますようお願い申し上げます。」との記載が目に留まります。これはいったいどういったことなのでしょう。

実は、このmimicのβ版が公開されるとネットで大炎上して、わずか1日でサービス停止となりました。このサービスはイラストの不正利用を助長するものだといった声が多く上がったのです。つまり、他人のイラストをmimic(AI)に学習させて、雰囲気が似ているけど違ったタッチのイラストを生成することができるならば、それは盗作と同じではないか?といった主張です。

実は、これは難しい問題を孕んでいます。この「IPビジネスだより」でもテーマによく上がってくる現在の法律が実情に追いついていないといった類の課題ともいえます。

まず、mimicを開発した企業(RADIUS5)は、著作権法に照らしてマズイことをやっているのでしょうか?他人の著作物(イラスト)をAIに学習させて特徴を受け継いだ別の著作物(イラスト)を生成する。なんだかいけないことをしているようにも思えます。

しかし、結論から述べると、mimicを開発した企業(RADIUS5)が著作権法違反に問われることはないと考えるのが有力でしょう。

通常、他人の著作物(この場合イラスト)を複数集めて参考にしながら特徴を受け継いだ別の著作物を生成することは著作権(複製権)の侵害にあたると考えられます。

ところが、日本の著作権法には特別な例外規定があって、情報解析を目的としている場合であれば、他人の著作物を複製・解析することができると定めています。これは世界的に見ても珍しい規定で、最近(平成30年)の改正で追加されました。

ここでいう「情報解析の目的」とは、AIに学習させる目的を意識したものです。日本がAI技術の分野で優位に立つべく世界に先駆けて取り入れた規定です。これに基づけば、mimic自体は悪くないということになるでしょう。

では、もし私が、有名漫画家のキャラクターのイラストをmimicに学習させて、その成果であるキャラクターのイラストを使って漫画を描いたらどうでしょう?

これは微妙な問題です。現実に、これに類する様々なプロジェクトが動いています。例えば、星新一の小説をAIに学習させて新作の小説を生成する、手塚治虫の漫画をAIに学習させて新作の漫画「ぱいどん」を出版するなどです。mimicもこれらの事例と同じといえないでしょうか。

これを考えるにあたって、まず、学習に使う著作物について著作者に承諾を受けているかどうかといった観点が思いつきます。しかし、前述の通り、「情報解析を目的としている場合であれば、複製・解析を行うことができる」わけですから、AIに学習させるためには承諾は不要であるとも考えられます。

では、前述の著作権法の例外規定は「情報解析を目的」と限っているので、mimicが学習してイラストを生成することは違反でないとしても、生成されたイラストを使って漫画を描くことは「情報解析を目的」とした行為ではないので違法では?との疑問が浮かびます。

それでは、mimicが生成したイラストを使いたいとすれば、誰にお願いすればよいのでしょう。つまり、mimicが生成したイラストの著作権は誰が持っているのでしょうか?実は、これは、著作権上の大きな問題です。

mimicが学習したイラストの作者に権利があるとの見解には、元のイラストの作者が創作したわけではないとの反論があります。mimicを開発した企業に権利があるとの見解には、mimicのプログラムを開発したに過ぎずイラストを創作したわけではないとの反論があります。では、権利を持つのはmimicでしょうか?これにはmimicは人ではないとの反論があります。この問題には様々な立場がありますが、明確に解決されておらず、現在の著作権法では、ここで行き詰ってしまうわけです。

mimicでは、利用にあたって「他人のイラストを無断でアップロードしない」とのガイドラインを定めています。また、開発した企業(RADIUS5)は、著作権に基づく権利行使はしないと定めています。これによって、mimicが生成したイラストの著作権が誰のものであっても問題が起きないように手当をしているといえます。

様々な課題がありますが、これらを乗り越えて、是非、サービスを軌道に乗せてもらいたいものです。

 

(メルマガ「IPビジネスだより 2022年9月号」から転載)