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商標「大間まぐろ」に何が起きているのか!?

「『大間まぐろ』漁場問わず 方針一転、商標登録再出願」(共同通信社 2022.10.31

こんな記事を見つけました。「大間まぐろ」の漁場と商標がどのように関係しているのでしょう。さらに、せっかく登録した登録商標をなぜ再出願なのでしょう。

調べてみると地球温暖化問題が商標登録にまで影響していることが分かり驚きました。

「大間まぐろ」といえば、毎年初セリがニュースになるようなブランドです。そのブランドを守るべく大間漁業協同組合は「大間まぐろ」を商標登録して管理してきたようです。

ここで、大間漁業協同組合が持つ登録商標「大間まぐろ」は、実は、地域団体商標という特殊な商標です。各社報道では、この点があいまいに伝えられているため、理解しづらい記事になってしまっています。

地域団体商標とは、地域ブランドの保護による地域経済の活性化を目的として認められる特別な登録商標です。これにはいくつかの条件があります。

まず、「地域名+商品(or サービス)名」の商標であることです。まさに「大間まぐろ」がこれにあたります。

通常、「地域名+商品(or サービス)名」の商標は誰でも独占したいものです。そのため、一般的な登録商標としては認められません。しかし、「地域ブランドの保護による地域経済の活性化」のためであれば、一定の条件の下、特別に認めるのが地域団体商標制度です。

特別な制度のため条件が厳しいです。まず、有名でなければなりません。そして、漁協など地域に根差した団体にしか認められません。さらに、「地域経済の活性化」が目的ですから地域名と商品(or サービス)名に密接な関係がなければいけません。

ところが、今回、この最後の条件が怪しくなってきたということのようです。

これまで大間漁業協同組合は比較的緩い運用で「大間まぐろ」のステッカーを貼ったまぐろを出荷していたようです。ところが、外部から「産地偽装ではないか」との声が上がるようになったため、下北半島の大間のやや南東の大畑から津軽半島の竜飛崎までを大間沖と定め、この大間沖で獲れたまぐろのみを「大間まぐろ」とすることに決めました。

しかし、最近では、大間沖ではまぐろが獲れなくなってきてしまっているらしいのです。

質の良いまぐろは沖の太平洋まで行かないと獲れない。それでは「大間まぐろ」を名乗れない。もし、「大間まぐろ」を名乗れば産地偽装や商標法違反にさえ問われかねない。

そんな八方塞がりの中、ひとつの対応が「商標登録再出願」なのでしょう。地域団体商標である限り「大間沖で獲れたまぐろ」との縛りから逃れることはできません。そのため、例えば、(大間沖で獲れたとは限らないが、)大間漁業協同組合が取り扱ったまぐろであることを証明する一般的な商標をあらためて登録するなどの手段をとるものと思われます。

「地域ブランドの保護による地域経済の活性化」を目指した地域団体商標制度は今年で16年を迎えます。「大間まぐろ」の他にもいくつか課題が顕在化してきています。そろそろ制度再設計の時期なのかもしれません。

 

(メルマガ「IPビジネスだより 2022年11月号」から転載)