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「氏名商標」の扱いは、どう変わる?

「氏名で商標登録が可能に、有識者会議が報告書」といった報道がありました。(読売新聞オンライン 2022.12.24)

IPビジネスだよりでも商標登録における「氏名」の扱いについて何度か取り上げたので、問題のポイントをご存じの方もおみえでしょう。

商標法では、氏名を商標登録するためには同姓同名の人から許可を取らなければならないことが定められています。これは前述の記事にもある通り「人格権の保護」を根拠としています。つまり、私と同姓同名の方が「『Yasushi WATANABE』を商標登録したので勝手に名乗るな」と私から言われたら理不尽ということです。

しかし、近年、自分の氏名をブランドとするデザイナーからの商標登録出願が立て続けに拒絶されたことから注目が集まりました。

もともと商標法は産業の発展を目的とする法律です。デザイナーのブランド保護ができずに偽物が横行するようでは本末転倒になってしまいます。さりとて、前述のように自分の名前が名乗れなくなっても困ります。

この問題、記事にもある「TAKEO KIKUCHI」や「ジュン アシダ」が拒絶されたあたりから解決すべき課題として位置付けられて、産業構造審議会で議論がされてきました。その報告が昨年末にあったというわけです。

最終的には、この報告を受けて、商標法の改正条文案が策定され、国会で承認された後に施行となります。よって、現時点で確実とは言えませんが、この報告書を読むと法改正の方向は見えてきます。

報告書によると前述記事のサブタイトルにもある「一定の知名度あるブランド名や店舗名」に限られるということになりそうです。報告書では「全国的に知られている」及び「需要者の間に広く認識されている」と記述されています。知財業界的には、前者を「著名」、後者を「周知」といったりします。

つまり、もし私が服飾デザイナーだとして「Yasushi WATANABE」と見聞きしたら、日本全国老若男女ほぼ全員が同じ人を思い浮かべるのが「著名」、服飾デザイン業界の人々、洋品店の店員や顧客であれば誰もが知っているのが「周知」です。

こうなると自分の名前を商標登録できる人は随分限られてくると思いますが、そもそも商標はブランドであることを考えると妥当といえるでしょう。

今年の法改正に注目です。

 

(メルマガ「IPビジネスだより 2023年1月号」から転載)