映画「Winny」公開間近

2023年3月10日に、映画「Winny」が公開されます。
この映画は、現実に起きた事件(Winny事件)を元に作られたフィクションです。

「Winny事件」をご存知の方も多いかもしれません。知的財産(特に著作権)と情報通信の世界を巻き込んで、それぞれの世界で、日本の未来に大きく影響した事件といえるでしょう。

Winnyは2000年代初頭に東京大学助手であった金子勇氏が開発した一種のファイル共有ソフトです。インターネットを介してファイル共有をするというのは、今では当たり前。例えば、皆さんもDropboxなどのソフトウェアを使って日常的に行っていることでしょう。

Winnyの特徴は「匿名性」にありました。例えば、前述Dropboxは共通のサーバに共有したいファイルを置いて、それを見たり、取得したりするといった仕組みです。一方、Winnyは共通のサーバを持たず、Winnyをインストールした複数のコンピュータ同士が通信してバケツリレーようにファイル受け渡します。どのようなルートを通ってファイルの受け渡しが行われたのか分かりにくくなります。

Winnyの技術は当時先進的であったといえます。それゆえ、知的財産と情報通信のそれぞれの分野で大きな社会問題を引き起こすことになりました。

知的財産の分野では、デジタルコンテンツの違法なやり取りという問題を引き起こしました。映画やゲームなどが自由にやり取りできる環境がWinnyによって出来上がってしまったのです。しかも、サーバを経由するわけではないので、どのようなコンテンツが誰から誰へ渡ったのか、当初は掴めませんでした。これは、ゲームやアニメなどのコンテンツによる経済立国を目指していた日本政府や業界を巻き込んだ大事件に発展しました。

情報通信の分野では、ウィルス被害の拡大が大きな問題となりました。Winnyは、これをインストールしたコンピュータ同士が利用者も知らない間にバックグラウンドで通信を行うしくみですから、これに乗じたウィルスが次々現れました。会社のPCにWinnyを入れていたら会社中のPCにウィルスが蔓延して大変なことになったなどといった事件も起こりました。

警察は、開発者の金子氏を、著作権侵害行為を幇助したとして逮捕しました。そして、この事件は最高裁まで争われることになり・・・というのが映画のあらすじですが、この先は映画館でのお楽しみということで。

「Winny事件」は、前述の通り、知的財産と情報通信のそれぞれの分野のその後に大きな影響を与えました。それと同時に、大きな課題を投げかけた事件でもありました。

知的財産分野では、知的財産に対しての権利意識を高める動きが広まりました。映画館に行くと必ず流れる“あの”キャンペーン動画が始まったのもこの頃です。インターネット上での映像や音楽の扱いを誰もが意識するようなったのもこれ以降かもしれません。一方で、コンテンツは誰のものかといった議論もされるようになり、知財リテラシーの向上という社会的効果をもたらしたといえます。

情報通信の分野では、ウィルスをはじめとするネット社会でのリスクを多くの人が意識するようになりました。こちらでも、ITリテラシーの向上という社会的効果をもたらしたといえます。一方で、この事件のおかげで日本のインターネット関連技術の研究・開発が委縮して、アメリカや中国に大きく後れをとることになったとの意見も傾聴に値します。

さて、この映画の大切なテーマは、科学発展の最大のジレンマ「ナイフを発明した人は、犯罪者なのか?」です。

発明から特許権という権利を産み出すお手伝いをする弁理士こそ、この映画の問いかけを常に考えながら仕事に向き合わなければならないと感じています。

 

(メルマガ「IPビジネスだより 2023年2月号」から転載)