· 

AIと著作権法(学習段階)

昨今、ChatGPTをはじめとした生成AIについて、誰もが普通に語るようになってきました。もはや、ChatGPTやAIという言葉を耳にしない日はありません。

生成AIを巡っては、便利な活用方法といったポジティブな捉え方がある一方で、著作権侵害などのネガティブな側面も話題になっています。

今月のIPビジネスだよりでは、日本の著作権法はAIについてどのように捉えているのかを眺めていきたいと思います。

さて、AIについて少し勉強してみた方は、生成AIの働きは、大きく2つの段階に分かれることをご存知でしょう。AIに大量のデータを学習させて学習済みモデルをつくる学習段階と、学習段階でつくった学習済みモデルを使って、AIが推論プログラムによってアウトプットを生成する生成段階の2つです。ざっくり、AIが勉強する段階と、勉強結果をもとに作品を作る段階とイメージいただければよいでしょう。

著作権法では、この2つの段階を分けて捉えています。まず、前半の学習段階から見ていきましょう。

学習段階の考え方の原則は、「AIに学習させるための著作物の利用は、著作権者の許諾なく行うことが可能」です。つまり、「私が描いた絵」の画像データを、誰かが画像生成AIの学習のために利用したとしても、「私が描いた絵」の著作権を侵害したことになりません。ただし、「著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない」場合に限られます。

つまり、「私が描いた絵」を「絵画」としてではなく、AIが学習するための単なる「データ」として利用するのであれば、著作権法上では、問題ないというわけです。(ここでは、肖像権やパブリシティ権については触れません。)

このような考え方の背景には、日本のAI技術の発展を鑑みると、学習データとして利用するのであれば著作権の制限をある程度認めざるを得ないという政策的判断も含まれています。

では、例外となる「著作物に表現された思想又は感情の享受を目的とする」場合とは、どのような場合でしょう。航空写真の画像を生成AIに学習させて、写っている建築物の3D立体画像を生成する場合などが例にあがります。つまり、このAIは著作物である建築物をそのまま表現する3D情報を生成することを目的としているから、その目的のための学習データとしての利用は原則に沿わないというわけです。

なお、「著作権者の利益を不当に害する」場合も例外となります。ただ、どのような場合が該当するのかについては、現時点では必ずしも明確になっていないというべきでしょう。生成AIの学習段階における著作権法での課題となっています。

 

(メルマガ「IPビジネスだより 2023年6月号」から転載)