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「五輪」と商標権、最高裁の判断は!?

国際オリンピック委員会(IOC)がもつ登録商標「五輪」の商標権は無効だとする争いが、ついに最高裁に持ち込まれたとの報道がありました。(出典:東京新聞 TOKYO Web 2023.7.16

先の東京オリンピック開催前に、IOCが商標「五輪」を登録してスポンサーのみに利用を認めたことに端を発する争いです。

記事では「識別力」という言葉が出てきます。この「識別力」とは、商標を見たり聞いたりしたら、その商標が付された商品やサービスの出所は「あの会社だ」と分かるかどうかです。

つまり、「五輪」と見たり聞いたりしたら、出所は「IOCだ」と思うかどうかということです。

原告側は、「IOCは『五輪』という言葉を使ったことが無いのだから、『五輪』と見たり聞いたりしてIOCを思い浮かべるなんてことはない」と主張しているわけです。この点、最高裁がどのように判断するかは注目です。

ところで、商標法には4条1項6号という規定があります。これは、簡単にいうと「公益に関する団体等であって営利を目的としないものが使用する商標は登録を認めない」というものです。趣旨は、公共の利益の保護です。

実は、アトランタオリンピックの頃までは、商標法の代表的な教科書には、この4条1項6号の具体例として「YMCA」や「NHK」と並んで「オリンピック」と記載されていました。ところが、現在では「オリンピック」の記載は無くなっています。

つまり、昔は、議論の余地なく「オリンピック」や「五輪」は商標登録できないとの見解が一般的でした。それが、オリンピックが公益事業から利益目的の事業に変容するにつれて、解釈が変わり、4条1項6号の典型例からも外れたことで、IOCの登録が認められ、IOCが権利行使を声高に叫ぶようになり、結果、今回の裁判へと至るわけです。

このように、商標の権利解釈は、時代と共に変わっていきます。以前は登録が認められなかった商標を再度出願したら登録されたりすることもしばしばあります。商標出願には、時代を見る目が求められるのかもしれません。

 

(メルマガ「IPビジネスだより 2023年7月号」から転載)