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商標権侵害の視点① ~ AFURIと雨降 ~

ラーメンチェーン店「AFURI」が、酒造メーカー「吉川醸造」を商標権侵害で提訴したとのニュースがありました。(出典:ねとらぼ 2023.8.26

これについて、AFURIと吉川醸造、それぞれのプレスリリースをご覧いただくと双方の主張がざっと分かると思います。

AFURI プレスリリース

吉川醸造 プレスリリース

双方の主張をご覧になって皆さんはどのような印象をお持ちでしょうか?簡単にどちらが正しいと言い切れるものではないと感じた方が多いのではと思います。それぞれの当事者の気持ちになってみると尚更ではないでしょうか。

この事件は、商標権侵害訴訟の典型ともいえます。今回のIPビジネスだよりでは、本件を参照しつつ、商標権侵害事件に至るまでの留意点と、商標権侵害事件での法律的ポイントに分けて眺めてみたいと思います。

まず、商標権侵害事件に至る過程を眺めていきましょう。

商標権侵害事件が裁判まで至る原因として、経験的に多くの場合は、双方のボタンの掛け違い、もしくは、当然の権利としての一方的な主張の押し付けが考えられます。

多くの商標権侵害事件は、一方から他方への警告書送付からスタートします。本件でも「昨年8月、ラーメンチェーン店 AFURI株式会社(略)から、当社商品である日本酒『雨降(あふり)』に付された商標(略)がAFURI社の商標権を侵害している旨の文書を受け取りました。」(出典:吉川醸造プレスリリース)とある通りです。

そして、この時の対応がその先の明暗を分けることになります。最も多い対応が、顧問弁護士に意見を求めることでしょう。そのこと自体は間違ってはいません。ただ、知的財産権法に通じた弁護士は非常に少ないことを知っておくべきでしょう。

一般的に、警告書を送る側の弁護士は知的財産権法に通じている場合が多いといえます。一方、警告書を受け取った側の弁護士が必ずしも知的財産権法に通じているとは限りません。そのような状況では、弁護士対弁護士での最初の交渉において、知的財産権法への知見・経験の差からくる主張の食い違いによって「ボタンの掛け違い」が発生してしまう場合をよく見かけます。はじめの一手で知的財産権法をしっかり理解した弁護士にお願いすることが交渉をこじらせないための第一歩と心得ましょう。

また、警告書を送る側からは、当然の権利として一方的な主張を押し付けてくることもままあります。このような場合は、冷静に対処することが求められます。法律に基づいて侵害を主張してくる相手には、法律に基づいて侵害していないと理路整然と説明することが効果的です。このためにも、知的財産権法をきちんと理解した弁護士を窓口とすることをお勧めします。

いずれにしろ裁判に持ち込まずに交渉で解決できることが最善と考えます。そのためにも、警告書が届いた際には、はじめの一歩を誤らないように気をつけることが大切です。

 

(メルマガ「IPビジネスだより 2023年8月号」から転載)