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商標権侵害の視点② ~ AFURIと雨降 ~

本件については裁判に持ち込まれたため、判断は司法にゆだねられました。では、商標権侵害事件での法律的ポイントはどこにあるでしょうか?

商標権侵害事件ですから「吉川醸造が使用する商標がAFURIの商標権を侵害しているかどうか」が争点です。いくつもポイントがありますが、本件での大切な点を見ていきましょう。

1.商標権の有効性

AFURIが主張の根拠としているのが登録商標「AFURI」(商標登録第6245408号)で、清酒などについて登録されています。出願日は2019年4月24日で、2020年4月14日に登録され、現在も権利が有効です。これを登録商標①としましょう。

一方、吉川醸造は「雨降」を図案化した登録商標(商標登録第6409633号)を清酒などについて持っていますが、出願日は2021年1月27日です。この登録商標にはアルファベット「AFURI」は図案に含まれていません。これを登録商標②とします。

さらに、吉川醸造は「雨降」と「AFURI」を図案化した商標を清酒などについて出願(商願2023-32269)しました。これを出願商標③とします。

AFURIは有効な登録商標①を持っています。このため、AFURIは清酒について商標「AFURI」を他人が使用することを差し止めることができます。これに基づいての警告と考えられますので、法律的にはあながち間違いではありません。

一方、吉川醸造は登録商標②を持っていますので、漢字「雨降」を図案化した登録商標を使うことは問題ありません。しかし、そこにアルファベット「AFURI」を加えると疑義があります。

そこで、吉川醸造は「雨降」と「AFURI」を図案化した商標を確認的に出願したと考えられますが、審査状況をみると拒絶理由(このままでは商標登録は認められない旨の通知)が出ています。おそらく、出願商標③よりも前に出願され、登録されている登録商標①を理由として認められないとの判断と思われます。

2.争いの泥沼化?

では、本件はどうなっていくのでしょう。前述の登録商標や商標出願の状況を眺めると深刻な争いのさまが見えてきます。

まず、AFURIの登録商標①について無効審判(この商標登録は無効との特許庁への訴え)が起こされています。登録商標①が無効となればAFURIの主張は根拠を失うわけですから吉川醸造は大手を振って現状のまま商標を使用できます。

一方、吉川醸造の登録商標②にも無効審判が提起されています。前述の通り、この登録商標にはアルファベット「AFURI」は含まれず漢字のみの図案ですので直接的には事件と関係ないといえます。どちらかといえば報復に近いと思われます。

権利侵害事件において相手の権利を無効とすることは常套手段です。しかし、本件ではお互いに潰しあいの様相を呈しています。根拠となる権利の有効・無効を争っていますので、問題の裁判もこの結論が出るまで前に進まないでしょう。長期化の様相を呈し、係争にかかる費用も馬鹿になりません。たとえ判決が出ても禍根を残すことになるでしょう。負ければ損害賠償も待っています。

外から得ることができる情報のみで現時点では正確な評価はできていないかもしれません。しかし、知的財産権侵害事件で拗れていく典型と感じます。ここまで至るまえに手は打つチャンスは何回かあったように思えます。

 

 (メルマガ「IPビジネスだより 2023年8月号」から転載)