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意外に身近な著作権リスク

共同通信社が、つくばエクスプレスを運行する首都圏新都市鉄道を、著作権侵害で提訴した、とのニュースがありました。(出典:日本経済新聞 2023.10.25

実は、この1年前に、首都圏新都市鉄道は、新聞記事の無断使用による著作権を侵害したとして中日新聞社から損害賠償を求められています。(出典:日本経済新聞 2022.10.6

共同通信社は、前述の判決を受けて新たに提訴したものですが、ここで着目すべきは、首都圏新都市鉄道が著作権を侵害したとされた行為です。

裁判で著作権を侵害したと認められた行為は、「新聞に掲載された記事を、許諾を得ずに画像データ化し、従業員が閲覧できる社内イントラネットに掲載した」ことです。

これを聞いて「えっ、これで著作権侵害なの?」、「新聞記事を職場で回覧することはよくあると思うけどダメなの?」と感じた方もおみえではないでしょうか。実は、このように、著作権リスクは意外に身近に潜んでいます。

でも、大丈夫。勘所を押さえれば身近な著作権リスクに気づくことができます。

「画像データ化して、社内イントラネットに掲載」することと「新聞をコピーして、職場で回覧」することは本質的に同じですので、後者を例にとって考えてみましょう。

「新聞をコピーして、職場で回覧」の問題は、「コピー」と「職場で回覧」です。

まず、無断でコピーをすると著作権(複製権)の侵害にあたります。コピーすることが問題なので、新聞の切り抜きの「原本」を回覧することは問題ありません。昭和の職場ではよく見られた光景で、懐かしい方もおみえでしょう。また、無断でなければ問題にはなりません。有償の記事クリッピングサービスなどは新聞社の許諾を得て行っています。

次に、著作権侵害には例外があります。その代表が「私的利用」です。「個人で楽しむ場合を除いて禁止」などの表現を目にしたことがあると思います。私的な利用には著作権は及びません。つまり、権利者の許諾なしに自由に著作物を使えます。

さて、では「職場で回覧」は「私的利用」でしょうか?もし「私的利用」であれば問題ないことになります。

残念ながら「職場で回覧」することは、「仕事で利用する目的で、多くの人に共有する」ことですので「私的利用」の例外は適用されません。結果、無断で「新聞をコピーして、職場で回覧」することは著作権の侵害になってしまいます。

このように筋道立てて考えていけば納得できるのかもしれませんが、日常的に著作権までは気が回らないことも理解できます。しかし、“著作権侵害をする企業”と世間に認知されてしまってはダメージも図り切れません。

ここで、勘所として念頭に置いていただきたいことがあります。それは、「著作権の本質はコピー(複写)」にあるということです。

何かを「コピー(複写)」する際に、いつも「著作権は大丈夫か?」と意識するだけで、随分著作権リスクを回避できます。今回、「えっ、これで著作権侵害なの?」と感じた方は、是非、この機会に勘所を身につけてみてください。

 

(メルマガ「IPビジネスだより 2023年10月号」から転載)