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生成AIと知的財産権侵害

政府が、生成AIによる知的財産権の侵害防止策を年内にも具体化する方向で検討に入った、との報道がありました。(出典:NHK 2023.10.10

ChatGPTに代表される生成AIは、あっという間に身近になりました。例えば、検索ツールで検索すると「関連する質問」などを表示してサポートしてくれるのも生成AIのおかげです。このように意識している、していないに関わらず、もはや日常で生成AIに触れることを避けて通ることはできなくなっています。

この生成AIの急速な拡がりで大きな課題となっているのが著作権の扱いです。

生成AIと著作権の間には、大きく2つの課題があります。ひとつは、生成AIが作り出した作品の著作権は誰のものか?そして、もうひとつが、生成AIに学習させるデータの著作権の扱いはどのように考えるかというものです。

冒頭の政府の動きは、2つの課題のうち、後者について検討に着手したとの報道です。

この課題は、「あなたが著名な画家だった場合に、生成AIにあなたの描いた絵画を大量に学習させてあなたの画風を感じさせる絵画を生成させた場合、それはあなたの著作権を侵害したことになるのか?」といったことなどが例に挙げられます。

政府がこのような課題解決に早急に取り組まなければならない背景には、日本特有の事情もあります。5年ほど前に日本では著作権法の改正が行われました。当時、生成AIの技術開発で後れをとった日本は、生成AIに著作物を“単なるデータ”として学習させる場合は著作権侵害にあたらないとの規定を盛り込みました。これによって、著作権を気にすることなく生成AIの研究や開発ができるようになり、進展を促せるとの政策的意図があったものです。

しかし、近年、生成AIの日常への急速な浸透によって、この改正が裏目に出つつあります。

生成AIに学習させるデータの著作権の扱いの利害は、データとして利用される著作物の権利者の立場と生成AIを利用する立場で大きく異なります。今回、政府が進める見直しは、このバランスをとることが求められるため、非常に困難が伴うとともに、その結果がその後の産業や生活に大きな影響を与えることは間違いありません。

あと2か月で誰もが納得する方向性が示されるのか?注目です。

 

(メルマガ「IPビジネスだより 2023年10月号」から転載)