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後発医薬品を巡る国の議論

厚生労働省は、価格の安いジェネリック(後発医薬品)への置き換えをさらに進めるため、特許が切れている先発医薬品について患者の負担額を引き上げる方針であるとの報道がありました。(出典:NHK 2023.11.10

報道によれば、「現在の患者の負担額は、薬の価格の1割から3割になっていますが、先発品を選んだ場合は、それに加えて後発品との差額の一部を自己負担とする方向」とのこと。

少々分かりにくいですが、要するに先発品の場合に患者が支払う額が今よりも上がるということです。

先発医薬品が高くなれば、安い後発医薬品を使う人が増えて国の負担額が減るという見立てです。どうしても先発医薬品を使いたい人は、これまで国が負担していた分の一部を負担してくださいということになります。

国としては、これで医療費の増加を抑制し、新薬の開発を後押しする財源を捻出したいと考えています。安い後発医薬品を使う人が増えれば国の財源から出ていくお金が減るわけですから、この浮いたお金を新薬開発の支援に充てることになります。

新薬の開発には大変な投資と時間がかかります。

欧米の製薬会社に新薬開発で水をあけられている日本としては何とか差を縮めたいと考えています。コロナの際のように、ワクチンを欧米に頼るようでは安全保障上も問題があります。そこで、国は、お金の面で後押しをする施策を検討しているわけです。

一方、時間についてはどうでしょう。

我が国の特許権は「特許出願から20年」と権利期間が定められています。しかし、製薬の世界では、新薬を開発して、特許を出願した後に、臨床試験や認証審査が控えています。これがとても時間がかかります。人の命のかかわるものであるため当然です。

もし、臨床試験や認証審査に15年とかかかってしまったらどうでしょう?せっかくの特許は、あと5年しかありません。そのあとは安い後発医薬品が出てきます。

そんな状況を考慮して、特許制度では、医薬品について、臨床試験や認証審査のために新薬の販売などができなかった期間に限り、最長5年権利の存続期間を延長することを認めています。

特許をはじめとする知的財産制度は、権利者と利用者・使用者のバランスをとることを目指した制度設計となっているわけです。

 

(メルマガ「IPビジネスだより 2023年11月号」から転載)