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「あまおう」の悩み

「『あまおう』王ゆえの悩み」との記事がありました。(出典:朝日新聞 2023.12.26

福岡県がもつ「あまおう」の生産などを独占できる「育成者権」が、2025年1月で消滅するといった内容です。

「育成者権」とは聞きなれない権利かもしれません。これは、特許権や商標権と同じ仲間の知的財産権のひとつです。育成された品種(植物体そのもの)を保護するための権利です。

農業の世界においては、植物の品種改良の競争が続いています。イチゴにおいては、日本では栃木県と福岡県の二大産地がしのぎを削っているといった話を耳にしたことがあるかもしれません。栃木県産の「とちおとめ」に対抗するために福岡県が開発した新品種が「あまおう」です。記事によれば、「あまおう」は高級品としてのブランドづくりにも成功して2004年には「とちおとめ」を抜いて販売単価日本一になったとか。

このように、植物の品種改良は、長年の研究開発を伴い、その成果は大きな経済効果をもたらす可能性を秘めています。この点、発明とよく似ています。

こうして品種改良などで育成された新たな品種について、登録して、一定期間の独占的使用を認めるのが「育成者権」です。「育成者権」の権利者は、自身の登録品種の利用を独占できると共に、第三者が無断でその登録品種を利用していればそれを排除することができます。特許権と同じような強力な独占権です。

一方で、登録期間が経過すると、誰でも自由に栽培できるようになります。この点も特許権などと同じです。「あまおう」の場合、2025年1月に登録期間を経過して権利消滅し、誰でも自由に栽培できるようになるわけです。

記事では、「あまおう」を越えるブランド品種がでてきていないことが危惧される一方で、福岡と同じような品質でこの品種を栽培することは現実的に難しいとしています。しかし、品質は劣ってもよいと割り切ってこの品種を栽培するのであれば、誰でも栽培できてしまうといったリスクをはらむのは事実です。

この点ついては、農林水産省知的財産課の担当者の見解が記事の最後にあります。「『あまおう』のようなブランド力のある品種は、更新できるブランド名の商標権が産地を維持する手段になりうる」とコメントしています。何を言っているのか少々分かりにくいかもしれません。

実は、「あまおう」は登録商標であって品種名称ではありません。農林水産省に登録されている品種名称は「福岡S5号」となっています。つまり、育成者権が消滅すると「福岡S5号」という品種名称は自由に使えるようになってしまいますが、「あまおう」というブランド名は別の権利である商標権で引き続き守られているということです。

さらに登録商標は更新できるので、「あまおう」のネーミングを他人に使わせず、「あまおう」といえばあの甘くて高級なイチゴとのブランドを継続的に守っていくことができるわけです。

このように、知的財産権は、互いに関係しあって皆さんの努力の結晶を守っていきます。

 

(メルマガ「IPビジネスだより 2023年12月号」から転載)