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スーパードライ!

「サッカーユニホームで『スーパードライ』商標争い」との記事がありました。(出典:日本経済新聞 2024.1.14

多くのサッカーファンがこのニュースを目にして、「なんだ!?いったいどういうこと?」と思ったことでしょう。

英国アパレル企業が商標権を持つ自社ブランド「Superdry」と、イングランドのプレミアリーグのマンチェスター・シティーのユニフォームにスポンサーであるアサヒビールの広告としてデザインされた「Super Dry」が紛らわしく商標権侵害だと訴えた事件です。なお、訴えられたのは、アサヒビールではなくマンチェスター・シティーであることも、事件を分かりにくくしています。

この英国アパレル企業は、「極度乾燥/Superdry」といったブランドで、英国だけでなく日本でも人気です。日本での「Super Dry」(アサヒビール)の人気からインスパイアされてブランドをデザインしたことは有名です。

この事件を検討してみると、商標権侵害の扱いの難しさが見えてきます。眺めてみましょう。

まず、商標権侵害だと主張するためには、それぞれの商標が似ている必要があります。今回、「Superdry」と「Super Dry」は、似ていると判断される可能性が高いです。これは、皆さんもイメージできるのではないでしょうか。

次に、商標権侵害は、商品・サービスごとに判断されることがポイントです。今回、問題になっている商品は「ビール」ではなく「ユニフォーム」です。「ユニフォーム」について正当な権利を持っているのは誰か?が問題となります。たとえ商品「ビール」について「Super Dry」の権利を持っているとしても、それが商品「ユニフォーム」を押さえていなかったならば、今回の件では権利を主張できません。

そして、商標権侵害で訴えられているのは、アサヒビールではなく、マンチェスター・シティーだということです。この報道に対して、ネットなどではアサヒビールが訴えられたと誤解して憤慨しているコメントなどが散見されました。しかし、訴えられたのがアサヒビールでないわけですから、アサヒビールが商標権を持っているなどと論じても意味がありません。マンチェスター・シティーが対抗できる権利を持っているかどうかが決め手になります。

アサヒビールの「Super Dry」にインスパイアされてつくった「Superdry」というデザインブランドなので、道義的にどうなのかといった主張は理解できます。しかし、法律的には、英国アパレル企業の主張は、どうやら筋は通っていそうに思えます。

このような事件は、商標ではしばしば起こります。一見、簡単そうな商標登録ですが、注意しないと大変なことになりかねません。商標の扱いには細心の注意を払いましょう。

 

(メルマガ「IPビジネスだより 2024年1月号」から転載)