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著作者人格権とは?

漫画「セクシー田中さん」を原作とするドラマを巡る一連の事件は、読者の皆さんもご存知かと思います。心が痛む事件でした。特に、多くのクリエーターの方にとっては他人事とは思えなかったのではないでしょうか。

この事件については、多くの方々が、それぞれの立場から様々な論評をされていますので、さらに論じることは控えますが、IPビジネスだよりでは、事件の根幹となっている「著作者人格権」について知識として整理しておきたいと思います。

IPビジネスだよりでも、著作権について何度かお話してきました。著作権とは、文章、絵画、音楽など創作した際に、その創作者に自然発生する著作物に対する独占的な権利です。

そして、この著作権は、著作者人格権と著作財産権に分かれます。一般的に著作権というときは著作財産権を指している場合が多いです。なぜなら、著作物は、他人による勝手な複製を禁止したり、ライセンス料と引き換えに商品化を認めたりといった条件を付して利用される場合が多いからです。これらは、いずれも著作財産権の利用です。

しかし、しばしば著作者人格権が問題となる場面があります。そして、このような際には、冒頭の事件のような深刻な形で現れる場合が少なくありません。

では、著作者人格権とは何でしょうか?

人格権とあるように、著作者の人格に紐づく権利です。そのため著作財産権のように他人に譲ったりすることはできません。相続も認められません。

著作者人格権は、次の3つの権利から成ります。まず「公表権」です。これは、作品を公表する・しないを決める権利です。作者が「まだ完成度が低いので公開できない」と言ったにもかかわらず、勝手に公表してしまうのは公表権の侵害です。

次に「氏名表示権」です。これは作品の作者として自分の氏名を表示する・しないを決める権利です。例えば、匿名で小説を発表したにもかかわらず、その作者を暴くような行為は氏名表示の侵害に当たる可能性があります。

そして「同一性保持権」です。作者は、自分の作品を勝手に改変することを禁ずることができる権利です。冒頭の事件での、漫画原作者がドラマ化においてストーリーを変えない(同一性の保持)を主張していたにもかかわらず受け入れられなかったという点が、この同一性保持権にかかわる論点となっています。

作品というものはクリエーターの手を離れると勝手にどんどん違ったものになっていってしまう傾向があります。それを防ぐために欧米では事細かに契約で取り決めることが一般的ですが、日本ではその辺りがなんとなく進んでいってしまうことがよく見受けられます。

著作者人格権が保護するのは、著作物そのものではなく、著作者の人格です。作品を作り出すクリエーターと、その作品を世に出す人たちと、作品を楽しむ我々が、そのことを理解することで作品にまつわる悲しい事件が無くなることを願ってやみません。


(メルマガ「IPビジネスだより 2024年2月号」から転載)