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JASRAC賞とコンテンツビジネス

作詞・作曲家らに代わって音楽著作権料を徴収する管理団体の最大手といえばJASRACです。2023年度の徴収額は過去最高の約1372億円だったそうです。

このJASRACが毎年「JASRAC賞」なるものを発表しているのはご存知でしょうか?今年も「2024年JASRAC賞」が発表されました。
(出典:JASRACサイト 2024.5.22

「JASRAC賞」は、JASRACからの著作物使用料の分配額が多かった作品に与えられる賞です。作詞者・作曲者・音楽出版社などに贈られます。最も多くネット配信され、テレビやラジオで放送され、CDが売れて、カラオケで歌われた、そんな楽曲が選ばれます。

ところで、「あれっ?歌手は?」と思った方もいるかもしれません。著作権は、音楽を創作した人の権利ですので、基本、権利者は、作詞者や作曲者です。歌手は著作権者になれません。ここはちょっと悲しいですね。

さて、この「JASRAC賞」の歴史を眺めるとコンテンツビジネスの変遷がみえて興味深いです。

今年、2024年の受賞曲は、金賞「アイドル」、銀賞「可愛くてごめん」、銅賞「閃光」で、ここから今は動画配信やアニメが強いといった背景が見えてきます。曲名に馴染みがない方は、是非、YouTubeで検索してみてください。

数年遡ってみると、2023年は、金賞「ドライフラワー、銀賞「夜に駆ける」、銅賞「残響散歌」、2022年は、金賞「紅蓮華」、銀賞「炎」、銅賞「ドライフラワー」です。首相の外遊にYOASOBIが同行するのも納得ですね。

更に、国際賞は、2022年、2023年、2024年と連続して『NARUTO-ナルト-疾風伝 BGM』です。国際賞は、海外からの入金が最も多かった作品に与えられる賞ですので、アニメが間違いなく日本にとって外貨獲得のための優良コンテンツとなっていることが分かります。

更に、過去を眺めてみると、コンテンツとメディアの関係の変遷も見えてきます。「JASRAC賞」ではメディアごとの分配金比率の分析もしているからです。

1980年代はCDやレコードが6割程度を占めていました。この時代の金賞受賞曲は、主に演歌です。「奥飛騨慕情」(1982)、「北酒場」(1983)、「矢切の渡し」(1985)などです。

1990年代に入るとカラオケがCDなどに拮抗してきます。例えば、金賞受賞曲では「乾杯」(1991)や「SAY YES」(1993)などがその代表です。そして、2005年金賞受賞の「世界にひとつだけの花」で、ついにカラオケがCDを逆転します。

しかし、翌2006年(金賞受賞曲「花」)からは、じわじわ伸びていた音楽配信サービスに取って変わられて、この傾向は今に続きます。


この先、どのようなコンテンツが世に受けられ、どのようなメディアが出てくるのでしょう。未来を想像すると楽しみでもあります。

(メルマガ「IPビジネスだより 2024年5月号」から転載)