「花王 アイリスオーヤマのアイマスク販売差し止めを申し立て」との報道がありました。
(出典:NHK 2024.7.9)
花王が、自社製品とデザインが類似し、意匠権を侵害しているとして、アイリスオーヤマが販売するアイマスクの販売差し止めなどを求めたとの報道です。
意匠権とは、新しくて創造性のある物のデザインについて一定期間独占を認める知的財産権のひとつです。デザインも人の創作活動から産み出されますので、これを保護しようとの趣旨です。
さて、今回の報道で興味深いのは、花王が「この製品は、不織布などでできたシートを目もとから耳にかけて装着するデザインや、発熱する素材を使っていることなどに特徴がある」と主張しているところです。
意匠権で保護されるのは「デザイン」です。「シートを目もとから耳にかけて装着するデザイン」は保護の対象になりますが、不織布でシートができていることや、発熱する素材を使っていることなどは特徴であったとしても意匠権とは関係ありません。これらは技術的な特徴であって、本来は特許権で保護されるべきものです。
では、なぜ意匠権なのでしょうか?それは、意匠権が権利行使しやすいからだと思われます。
意匠権の保護対象であるデザインは「物の外観」ですから、目で見れば、似ているか、似ていないか判断することは比較的容易です。一方、特許権の保護対象である技術的な特徴は、実験したり、分解したり、データ収集したり、権利侵害を証明するには手間がかかります。
つまり、花王の立場では、不織布でシートができていることや、発熱する素材を使っていることなどの特徴で差し止めるよりも、形がそっくりと訴えるほうが決着をつけるのに手間がかからないといえます。
意匠権は、デザインを保護するものではありますが、技術的な特徴が製品の形に特徴的に表れる場合はよくあります。このような場合、技術的な特徴を特許権で守るのみでなく、加えて、そのデザインを意匠権で守ることで、間接的に技術的な特徴を守ることができます。
特許出願を考える際、この製品の技術的な特徴はデザイン的な特徴にもなっていないだろうかと考えてみることをお勧めします。
(メルマガ「IPビジネスだより 2024年7月号」から転載)