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黒歴史 “特許包囲網”

NHKで放送している「神田伯山の これがわが社の黒歴史」という番組をご存知ですか?

NHKによれば、「講談師の神田伯山が『企業の黒歴史(=苦労の歴史)』を講談にして語る異色の経済番組!黒歴史を笑いに変えながら、今に生きる教訓をあぶりだす」とのこと。

失敗から学ぶことに興味がある私は、いつも楽しく観ています。さて、8月20日放送では特許が話題の回だったのでご紹介しましょう。

「貝印“特許包囲網”の地獄」
(出典:NHK 2024.8.20)

日本の刃物メーカー貝印の黒歴史です。タイトルから想像できる通り、貝印が替刃カミソリに参入した際のお話です。この番組を観て、いくつもの気づきを得ることができました。

番組によると、貝印が替刃カミソリに参入したのは意外に最近で、その頃、すでに日本市場は海外2大メーカーに抑えられていたようです。確かに、貝印というと使い捨てカミソリのイメージがあります。貝印の替刃カミソリを店舗で見かけるかといえば確かに今でも少々怪しいです。

貝印が替刃カミソリに参入しようと開発を始めた際には、海外メーカーによる強固な特許網が作られていて参入の余地がほとんど見つからなかったようです。例えば、ミクロン単位の刃先の設計方法まで特許化されていたそうです。

さて、ここから面白かったのが、強固な特許網が敷かれた市場に参入しようとする企業にありがちな失敗です。そもそもライセンスにお金をかけるわけにいかないので、特許網の穴を見つけなければなりません。強固な特許網で守られた市場、すなわちレッドオーシャンに乗り出していくことになります。すると、いつの間にか進路を見失ってしまうようです。

貝印の場合、顔の形にあわせて刃先をカーブした製品を開発したようです。これは、特許網に空いた穴でしたが、どうやら落とし穴だったようです。

顔の形は千差万別、標準的なカーブで製品化したものの、自分の顔にフィットする刃先を期待した購買者から満足を得られずまったく売れなかったとのこと。平均的なカーブでは決して個々の顔のカーブにフィットしないからです。

強固な特許網から穴を見つけるのは至難の業です。もし、穴があったとしたら、なにか理由があると考えるのが良いかもしれません。例えば、刃先をカーブした替刃カミソリの特許がないのであれば、そこには海外2大メーカーが特許を取っていない理由があるのではないかといったことです。

貝印は、この失敗の後、三枚刃のカミソリを世界初で製品化して挽回したそうです。これもまた面白い話です。なぜ、海外2大メーカーが二枚刃のみで三枚刃に挑んでいなかったのか。番組では明らかにされていませんでしたが、とても興味深いですね。

特許戦略を考えるうえでは、このような事例を研究することはとても役に立ちます。貝印は、この経験を活かして知財経営に舵を切ったようです。現在では、400件の特許を保有すると番組で紹介されていました。黒歴史は無駄にはならなかったようです。

失敗から特許戦略に目覚めた貝印。次に替刃カミソリを買うときには、貝印を試してみようと思った次第です。

 

(メルマガ「IPビジネスだより 2024年8月号」から転載)