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電動アシスト自転車と特許

NHKの番組「新プロジェクトX」で、「革命の自転車 つなげ、感動のバトン 〜電動アシスト自転車〜」といったタイトルで放送がありました。
(出典:NHK 初回放送 2024.10.19)

電動アシスト自転車を初めて世に出したヤマハの開発秘話といった内容でした。

技術的な課題を克服し、道路交通法の壁を乗り越え、実用化に漕ぎつけたヤマハの開発陣でしたが、満を持して市場に問うた電動アシスト自転車がまったく売れないという状況に追い込まれます。番組終盤の山場です。

この時、ヤマハがとった起死回生の一手が、競合他社と手を組むといった戦略でした。ここで更に、電動アシスト自転車の市場を広げるために自社の持つ特許を開放するといった策に出ます。

これによって電動アシスト自転車は一気に普及することになります。しかし、特許を開放したことで、発明者であったにもかかわらず、ヤマハは電動アシスト自転車の市場でリーダーの座をとることはできませんでした。

さて、特許の本質は独占です。競合の市場参入を押さえて寡占状態をつくり出すためのツールとして機能します。

しかし、その技術があまりに先進的である場合、消費者がその価値を理解できずに市場が形成されない場合があります。こうして消えてしまった製品も数多くあります。

一方で、ヤマハが行ったように特許を開放することによって市場を作り出すことができる場合があります。その技術が革新的であるにもかかわらず、自社のマーケティング力が弱い場合などに有効な手段です。

ただ、この場合、先のヤマハの例のようにマーケットはできたものの、その多くを自社が抑えることができない可能性もあります。ここが知財戦略の機微でしょう。

ビジネスである以上、自社の利益を産まなければその製品やサービスに意味はありません。そのためには市場を独占するのか、新しい市場を作り出すのか。特許の戦略的活用の本丸です。

 

(メルマガ「IPビジネスだより 2024年10月号」から転載)