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続報!ポケモン vs パルワールド

IPビジネスだより2024年9月号で「企業の知財活動『ポケモン』」と題して、「ポケモン」を中心としたサービス提供を行っている任天堂と、新たに「パルワールド」というゲームを新たにリリースしたポケットペアの間で侵害訴訟が起きていることをお伝えしました。

今月に入って、その訴訟内容が明らかになりつつあります。詳しい解説記事も上がっているので興味がある方は目を通していただくとよいでしょう。(出典:日本ビジネス 2024.11.18)

さて、上述の記事では「訴訟で際立つのは任天堂の“特許網”構築の速さ」がテーマの一つとなっています。この点を読み解くうえで、記事では、若干分かりにくいところもあったと思います。そこで、今回は3点ほど補足してみようと思います。

まず、特許の基本である「先願主義」です。平たく言うと「特許の世界では1秒でも早く出願した方が勝ち」といったルールです。

記事では、「パルワールドの発売後に任天堂が特許を登録するのは後出しじゃんけんにも見えるが、実際は異なる」と書いていますが、この後に、「特許の世界では1秒でも早く出願した方が勝ちだからだ」といった説明のための一文があったらより分かりやすくなったでしょう。つまり、パルワールドが発売されるより前に任天堂が特許を申請(出願)していたので、たとえ権利が認められる(登録)がパルワールドの発売より後になってもそこは問題ではないということです。

次に、「分割出願」です。聞き慣れないでしょうが、普通によく使われます。今回もその典型です。

「分割出願」とは、もともとの特許出願の書面に記載されていた事項から一部を取り出して新たな特許出願にすることができるといった制度です。できるのは一定の期間に限られますが、一番初めに出す特許出願の書類に多くのこと(もちろん発明になり得る新しいことでなければいけませんが)を書いておけば、後から抜き出して別の特許出願にできるというわけです。さらに、この制度のポイントは、抜き出してつくった別の特許出願も、もとの特許出願と同じタイミングで出願したとされる点にあります。

つまり、今回の一件でいえば、パルワールドが発売されるより前に任天堂が出願していた特許出願から一部を抜き出してつくった別の特許出願も、パルワールドが発売されるより前に出願されたとみなされるということです。これは任天堂にとって有利です。

そして最後に「スーパー早期審査」です。名前からして物々しいですが、特許出願の内容が裁判での論点になっているなど早く決着しないと問題が大きくなりそうな場合に特許庁に求めることができる制度です。その名前の通り、スーパーに早く審査をしてくれます。通常、特許の審査は1年くらいかかることは一般的ですが、「スーパー早期審査」では1か月くらいで審査結果が出ることもあります。

これらの制度の説明を念頭に、もう一度記事を読んでみると、任天堂がいかに特許戦略に長けていて、なおかつ、本気で取り組んでいるかが分かるでしょう。

特許は、ビジネスに活用できてこそ真価を発揮します。どのように活用したいのかを明確にしたうえで特許取得を目指すことは大切でしょう。

 

(メルマガ「IPビジネスだより 2024年11月号」から転載)